2014年1月30日木曜日

2/1公開『新しき世界』 ある潜入捜査官の選択

2月1日丸の内TOEI、シネマート新宿ほか全国ロードショー
2013年・韓国/監督:パク・フンジョン/出演:イ・ジョンジェ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミン、パク・ソンウン、ソン・ジヒョほか/134分
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 時折思う、任務を終えた潜入捜査官は無事堅気の警官に戻れるのだろうかと。何年もかけて犯罪組織に潜入し、融け込んで、多くの犠牲を払って見事に任務を果たした後……
 この映画の主人公ジャソン(イ・ジョンジェ)は、8年前に潜入捜査官として韓国最大の犯罪組織に入り、組織のナンバー2であるチョン・チョン(ファン・ジョンミン)の右腕にまでなった。本心では、任務を早く終えてまっとうな警察官に戻りたいと思っている。彼の正体を知るのは、ソウル警察のカン課長(チェ・ミンシク)とその上司の局長、連絡係のだけだ。そんな折、組織のトップが謎の死を遂げ、カンは跡目争いを利用した「新世界」作戦を企てる。
 潜入捜査はもうすぐ終わるはずだと信じるジャソン。カンからは新たな指令が飛んでくる。任務に追い詰められたジャソンに逃げ場はなく、正体がバレればもちろん命はない。チョン・チョンとの間に紡がれた、同じ中国系韓国人という兄弟のような絆が、苦悩を深くする。チョン・チョンは、うっかり者のようでありながら、底知れない恐ろしさを併せ持つ。ジャソンは、恐怖と孤独を抱えながら、誰にも気を許すことはできないまま、自身も犯罪組織の一員として冷酷に振る舞うことを余儀なくされる。
 かつて『情事』や『イルマーレ』などのラブストーリーに主演し、その甘さで女性ファンを魅了していたイ・ジョンジェだが、本作では極めて男性的な世界をじっくりと体現する。企業化した犯罪組織のなかで身にまとうのはダークスーツだ。かっちりとしたそのフォルムが、主人公の置かれた状況を示している。セリフよりも表情よりもスーツに包まれた両肩が苦悩を語る。そして、身に危険が迫るなか、彼はある選択をする。
 どこか『インファナル・アフェア』や『エレクション』といった香港映画を彷彿させる本作だが、監督のパク・フンジョンはこれらノワール映画のファンだそうだ。オマージュだろうか。色数を抑えた凍てついた映像が、恐ろしくも魅力的だ。本作は、長大な物語のなかの中間部分にあたり、機会があれば前編と後編も撮りたいとのことだ。

2014年1月15日水曜日

『NOWHERE ノアの方舟』

台湾での劇場公開で台湾映画として5本の指に入る大ヒットとなった3Dムービー「五月天諾亞方舟」が、『NOWHERE ノアの方舟』として日本公開されることになりました。TOHOシネマズ六本木ヒルズ&TOHOシネマズなんばの2館、2月8日から一週間の期間限定となります。料金は2200円(特別興業につき各種割引料金適用なし)。詳細は、http://liveviewing.jp/mayday-movie/ をご参照ください。

2014年1月14日火曜日

1/11公開『グォさんの仮装大賞』 老人たちを生かす、その力の源は?

1月11日シネマート新宿・シネマート心斎橋にてロードショー
1月18日シネマスコーレ、ほか全国順次公開
2012年・中国/原題「飛越老人院」、2012年東京国際映画祭上映時タイトル「老人ホームを飛び出して」/監督:チャン・ヤン(張楊)/出演:シュイ・ホァンシャン(許還山)、ウー・ティエンミン(呉天明)、リー・ピン(李濱)、イエン・ピンイエン(顔丙燕)ほか/104分
http://www.guosan.jp/

  70を過ぎ、再婚相手に先立たれたグォは、義理の息子に自宅を明け渡して友人チョウの暮らす老人ホームに居を移した。ホームでは、チョウの発案でテレビの仮装コンテストに出る話が持ち上がったところだった。コンテスト出場という目標ができ、はつらつとした日々を送る老人たちだったが、テレビ局のある天津は遠く、目の前には施設長や身内の了解を得なければならないという難題が立ちふさがっていた。
  老いた親の世話をどうするかという問題は、少子高齢化社会の日本で大いに問題になっているが、一人っ子政策の中国でもそれは同様、いや、もしかしたらそれ以上に深刻な問題なのだろう。グォやチョウら老人たちは、じつに過酷な家庭環境の下でホーム暮らしを余儀なくされた。だが、ここでスポットを当てているのは、そうした問題より、むしろ困難な現実から解き放たれ目を輝かせて前に進む老人たちの姿である。
  自宅を義理の息子に奪われ、実子にも拒絶され、植木鉢ひとつ抱えてうなだれた様子でホームにやって来たグォ。彼にとっての救いは、旧友チョウの明るさだ。チョウのリードでコンテストに向けてトレーニングに励むうち、グォは生きる張り合いを見出していく。それは、ほかの老人たちも同じだ。煩わしさを忘れ、目を輝かせて一心に打ち込む。
  やがて、彼らはホームを飛び出してオンボロバスで天津へ向かうのだが、その道中が、また、よい。いくつかのトラブルといくつかの出会いに縁取られた冒険旅行。齢を重ね、童心に返って今を楽しむ彼らを、誰が応援せずにいられるだろう? 金目当てで没交渉だった祖父グォに近づいた孫も、いつしか応援団員と化す。自身、良好ではない親子関係の下に生きてきたというチャン・ヤン監督の、家族(特に両親)に対する思いもそこには込められている。
  物語終盤でチョウの秘密が明かされる。明朗さの陰に隠された事実、チョウを衝き動かし続けたパワーの源は何であったのか。人の生きる力の源泉を見る思いがする。